私のブログには、時々「口内炎に塩を塗っても大丈夫ですか」というコメントが寄せられます。昭和の時代、あるいはそれ以前から、口内炎には塩を塗るのが当たり前の光景として多くの家庭で見られました。おじいちゃんやおばあちゃんから「痛いけど我慢しろ、すぐ治るから」と言われて、涙を流しながら塩を塗り込まれた記憶を持つ人も少なくないでしょう。では、なぜこの方法はこれほどまでに広く浸透したのでしょうか。1つの理由は、当時の殺菌手段の少なさにあります。医療機関が身近でなかった時代、どこの家庭にもある塩は、安価で手軽な最強の殺菌剤と信じられていました。実際に塩には防腐効果があり、漬物などが腐らないのはその力のおかげです。それを人体に応用しようとしたのがこの知恵の始まりでしょう。また、もう1つの理由は「苦行による安心感」という日本人的なメンタリティです。痛みを伴う治療こそが効果的であるという精神論的な刷り込みが、科学的根拠を上回って信じられてきた側面があります。しかし、現代の科学はこの「昭和の知恵」を明確に否定しています。私たちの粘膜細胞は、塩を直接塗るという暴力的な刺激に耐えられるようにはできていません。塩の結晶が粘膜を傷つけ、強烈な浸透圧が細胞内の水分を吸い出すことで、細菌とともに自身の細胞も破壊されてしまいます。これは治療というよりは、むしろ細胞の虐待に近い行為です。ネット上の一部では今でも「塩を塗ったらすぐに治った」という声を見かけますが、それはおそらく、その人の元々の免疫力が非常に高く、塩のダメージを跳ね返して治癒しただけであり、塩のおかげではありません。もし、塩を塗ることで治癒が早まるのなら、製薬会社はこぞって「塩パッチ」や「塩軟膏」を発売しているはずですが、そんな製品はどこにも存在しません。それが答えです。今の時代、口内炎を治すために自分を痛めつける必要はありません。ドラッグストアに行けば、貼るだけで痛みを遮断してくれる薄いフィルム状のパッチや、粘膜を保護する優れた軟膏が数百円で手に入ります。100円の塩で自分を拷問するよりも、適切な医薬品を選び、1時間でも長く眠る方が、はるかに科学的で賢明な選択です。過去の習慣を否定するのは寂しい気もしますが、正しい知識で自分の体を守ることこそが、現代を生きる私たちの責任だと言えるでしょう。