ある日、歯茎に、ニキビのような、ぷくっとした「おでき」ができ、そこから膿が出てきた。痛みはあまりないけれど、不気味で、不潔な感じがして、つい、指で潰してしまいたくなる。そんな衝動に駆られた経験はありませんか。しかし、この行為は、絶対にやってはいけない、最も危険なNG行動です。歯茎から膿が出る「おでき」、専門的には「フィステル(瘻孔:ろうこう)」と呼ばれますが、これは、歯の根の先に溜まった膿が、行き場をなくし、顎の骨を溶かして、歯茎を突き破って出てきた「膿の排出口」です。つまり、これは症状の出口であり、原因そのものではありません。自分で潰すという行為が、いかに危険で、無意味であるか。その理由は、三つあります。第一に、「根本的な解決には、全くならない」ということです。膿を一時的に排出しても、膿を作り出している、大元である、歯の根の先の細菌感染は、そのまま残っています。蛇口を開けたまま、床にこぼれた水を拭いているようなもので、原因を断たない限り、膿は、またすぐに溜まり、何度でも同じ場所から出てきます。第二に、「感染を、さらに悪化させる」危険性です。私たちの指には、無数の細菌が付着しています。その指で、傷口であるフィステルを潰すと、そこから新たな細菌が侵入し、炎症を、さらに悪化させてしまう可能性があります。最悪の場合、感染が周囲の組織に広がり、顔がパンパンに腫れ上がる「蜂窩織炎(ほうかしきえん)」といった、重篤な状態を引き起こすことさえあります。第三に、「歯茎の組織を、無駄に傷つける」ことです。無理に潰すことで、周囲の健康な歯茎まで傷つけてしまい、治りが悪くなったり、傷跡が残ったりする原因となります。では、膿が出ている時に、私たちができる、正しい応急処置とは何でしょうか。①口の中を清潔に保つ:刺激の少ない洗口液や、ぬるま湯で、優しくうがいをします。②患部を刺激しない:指や舌で、絶対に触らないようにしましょう。③体調を整える:十分な睡眠をとり、免疫力を高めることが、症状の悪化を防ぎます。そして、最も重要な応急処置が、「できるだけ早く、歯科医院を受診する」ことです。膿は、あなたの歯が発する、緊急のSOSサインです。そのサインを、真摯に受け止め、速やかに、プロである歯科医師に、助けを求めましょう。