私は長年、噛んでもいないのにできる口内炎に悩まされていました。特にデスクワークで集中している時や、緊張する会議が続いた後などに、決まって口の中に痛いものができていました。ビタミン不足やストレスが原因だろうと考え、サプリメントを飲んだり、リラックスを心がけたりしましたが、なかなか改善しませんでした。そんなある日、定期検診で訪れた歯科医院で、歯科衛生士さんから意外な指摘を受けました。「もしかして、口が乾きやすくありませんか?」。言われてみれば、仕事に集中していると、何時間も水分を摂らないことがよくあり、口の中がネバネバしている感覚がありました。衛生士さんによると、唾液には口の中の細菌を洗い流す自浄作用や、細菌の増殖を抑える抗菌作用、そして粘膜を保護・修復する作用があるとのこと。しかし、ストレスや緊張状態が続くと交感神経が優位になり、唾液の分泌量が減ってしまい、これらの重要な働きが低下してしまうというのです。つまり、私の口内炎の原因は、唾液の減少による口腔内の防御機能の低下にあったのかもしれません。その日から、私は意識的に唾液を出すことを心がけるようになりました。まず、仕事中は手元に常に水やお茶を置き、こまめに水分補給をするようにしました。一口ずつゆっくりと飲むことで、口の中を潤します。また、食事の際は、よく噛むことを意識しました。噛むという行為が唾液腺を刺激し、唾液の分泌を促すからです。さらに、ガムを噛んだり、舌を意識的に動かして唾液腺をマッサージしたりすることも取り入れました。こうした簡単な習慣を続けた結果、あれほど頻繁にできていた口内炎の回数が劇的に減ったのです。唾液という、自分の体に備わった天然の薬の力を、私は見くびっていました。