医療
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噛むとなぜ痛いのかその仕組みを考える
私たちが食べ物を噛む時、歯には想像以上に大きな力がかかっています。硬いものであれば、自身の体重と同じくらいの力がかかることもあると言われます。通常、この力は歯とその周りの組織によって巧みに受け止められ、分散されます。しかし、何らかの異常があると、そのバランスが崩れ、「痛み」という警告信号が発せられるのです。この痛みのメカニズムを理解する上で重要な役割を果たすのが、「歯根膜」という組織です。歯根膜は、歯の根っこと顎の骨との間に存在する、薄い膜状の組織です。これは単なる隙間埋めではなく、噛んだ時の力を吸収するクッションのような役割や、食べ物の硬さや食感を感知するセンサーのような役割を担っています。虫歯が進行して神経にまで達した場合、噛んだ時の圧力が直接神経を刺激するため、激しい痛みを感じます。これは比較的イメージしやすい痛みでしょう。一方で、虫歯ではないのに痛む場合、この歯根膜が炎症を起こしているケースが多く見られます。例えば、歯周病で歯を支える骨が弱くなったり、歯ぎしりや食いしばりで過剰な力が継続的にかかったりすると、歯根膜がダメージを受けて炎症を起こします。炎症を起こした歯根膜は非常に敏感になっており、普段なら何でもない噛むという行為の圧力さえも、痛みとして脳に伝えてしまうのです。また、歯の根の先に膿が溜まる「根尖病巣」という状態でも、噛むと痛みが出ます。これは、噛む力によって膿の袋が圧迫され、周囲の神経を刺激するためです。このように、一口に「噛むと痛い」と言っても、その背景には様々な生体内の反応が関わっています。痛みの原因を正しく突き止め、適切な処置を施すことが、この不快な症状から解放されるための唯一の道なのです。