日々のトレーニングに励む多くのアスリートが、実は奥歯の痛みに悩まされていることをご存知でしょうか。激しい運動中に歯を食いしばることは、瞬間的に大きな力を発揮するために無意識に行われる行為です。しかし、この食いしばりが、歯や顎に想像以上の負担をかけている場合があります。ある大学で陸上部に所属する短距離選手の田中さんも、その一人でした。彼は自己ベスト更新を目指して厳しい練習に打ち込む毎日を送っていましたが、いつからか練習後に奥歯に鈍い痛みを感じるようになりました。最初は練習の疲れだろうと軽く考えていましたが、症状は改善せず、しまいには食事中に硬いものを噛むことすら辛くなってしまったのです。虫歯を疑って歯科医院を受診したものの、彼の歯に虫歯は見つかりませんでした。レントゲンでも異常はなく、原因がわからないまま痛みだけが続きました。途方に暮れた田中さんでしたが、スポーツ歯科に詳しい専門医を紹介され、そこでようやく原因が判明します。彼の痛みは、トレーニング中の過度な食いしばりによって、歯の根を支える歯根膜が炎症を起こす「歯根膜炎」が原因だったのです。特に瞬発力を必要とする競技では、自分の体重の何倍もの力が歯にかかることがあると言います。治療として、田中さんには彼専用のカスタムメイドのマウスガードが作られました。マウスガードを装着して練習することで、歯にかかる衝撃が緩和され、顎の位置も安定します。その結果、彼の長年の悩みだった奥歯の痛みは嘘のように消え去りました。この経験は、スポーツにおけるパフォーマンスと口腔内の健康がいかに密接に関わっているかを物語っています。